金銭問題
夫婦の間で問題となる様々な金銭問題
夫婦の問題が考え方を変えるだけで改善できるものなら、前向きに関係修復の検討もできるのですが、生活がかかるお金が深刻な状況に陥っている場合、関係改善は相当難しい作業になると言わざるを得ません。
”愛があれば金なんて・・・”と言う人もいるでしょうが、私が金銭問題の相談者から教えていただいた現実は「過酷な金銭問題があると、百年の恋も一気に冷める」というものです。
夫婦の金銭問題は様々ですが、以下に7つの代表例を取り上げてみましたので、まずはご覧ください。
- 金銭感覚の違い(お金に関する価値観の相違)
- 配偶者の給料に感謝できない
- お金に関する嘘や秘密は夫婦の信頼関係を破壊する
- 金銭的束縛による精神的虐待
- お金を管理する能力が乏しいと夫婦関係は破綻に近づく
- 貧乏に強いほど離婚しにくい(夫婦喧嘩の7割はお金の問題)
- 浪費
金銭感覚の違い(お金に関する価値観の相違)
私は、配偶者の浪費に関するご相談も相当数お受けしてきましたが、具体的な事情を伺うと、問題の本質は浪費ではなく「価値観の相違(金銭感覚の違い)」と判明することがよくあります。
たとえば「夫がマンガやDVDやゲームなどの要らない物をたくさん買い込んで困っています!」という相談の場合、具体的な金額を聞けば、小遣いの範囲内での消費に過ぎなかったり、過剰に非難する問題でないことが多々あります。
金額が「確かによく使っている方かな」というケースでも、浪費の明確な基準はないので「所得と比較して明らかに多額」という消費でなければ浪費とは言いきれません。
問題を解決する上で最も重要なことは「他人の価値観が認め、尊重すること」です。
前述の例で、妻は夫の消費(マンガ・DVD・ゲームなど)を「要らない物」と批判していましたが、これは明らかに夫の価値観の認めない姿勢です。
価値観は誰でも違います。百人いれば百通りの価値観があるということです。そして一部の例外を除き、価値観に優劣はありません。
もし妻が「自分はマンガに価値は感じないけど、夫が価値を感じるのは自由。夫の価値観も尊重されるべき。」と考えを改めたら、価値観に多少の相違はあっても、夫婦関係の崩壊までには至らないはずです。
他人の価値観を認めない姿勢は、様々な問題を悪化させる要因となります。たとえば夫が「妻は絶対に自分の趣味(価値観)は認めない。話しても夫婦喧嘩になるだけだ。」と考えたとしたら、様々な形で問題が起きることが予想されます。
たとえば、自分の趣味を我慢して妻に対する憎悪を増幅させたり、精神的負担の増大で体を壊したり、勝手に高価な買い物をしたり、別居を決意したり、離婚を決意したり、何らかの復讐を計画したり・・・と、大体ろくなことがありません。
他人の価値観を認めない姿勢は夫婦の関係をはじめ全ての人間関係を悪化させますので、一刻も早く改善を試みましょう。
配偶者の給料に感謝できない
配偶者の給料に感謝の気持ちを持てないと、それが引き金で離婚に発展することがあります。
たとえば、夫が一生懸命働いて帰宅しても、妻が夫の稼ぎに感謝の気持ちを持たないでいると、夫の気持ちを逆なでする発言が増えます。ここではその一例を挙げてみましょう。
- 大した稼ぎも無いくせに
- 夫が働くのは当然でしょ
- 夫が仕事を頑張るのは当たり前
さて、こんな言葉を聞いた夫はどんな気持ちになるでしょう。本当のことでも言わない方がいいことはたくさんあります。女性には分かりづらいかもしませんが、男性は自分の稼ぎに対する非難を一番嫌います。
自分の働きや貢献を認めない妻の姿勢に憤慨する人もいれば、能力の否定と感じて自信を喪失する人がいるなど反応は様々ですが、その全てが夫婦関係の悪化に向かっていることは間違い無いと言えるでしょう。
目の前の生活を前に「今の給料では厳しい」と言って、現実的な家計の遣り繰りを話し合うことまで否定するわけではありません。大切なのは基本的な姿勢です。
たとえ、金額が満足のいくものでなくとも「夫が家族のことを想って懸命に働いて稼いだお金なら」三つ指ついて感謝するくらいの姿勢を心掛けるべきでしょう。
感謝の気持ちを持った上で、必死に頑張っている夫は激励し、努力の足りない夫は叱咤激励すれば良いだけの話です。夫の稼ぎを非難したところで、何の得もありません。
イギリスのことわざに「感謝とは、過去に向けられた徳行というよりは、未来に生かされる徳行である。」というものがありますが、感謝の気持ちを持つのは自分のためです。
夫婦や家族の関係は、考え方を少し変えるだけで格段に改善されます。謙虚な姿勢で考え方の改善に取り組んでいきましょう。
浪費
浪費かどうかの判断は難しい
夫婦間で最も大きく取り上げられる金銭問題は浪費でしょう。しかし、普通の夫婦が悩む配偶者の浪費問題の多くは、価値観の相違とコミュニケーション不足が原因ではないでしょうか。
浪費は「無駄使いをすること」ですが、そもそも無駄使いかどうかの価値判断は個人ごとに異なります。夫にとっては「価値ある消費」でも、妻にとっては「無駄使い(浪費)」と感じられるようなケースはいくらでもありますが、一体どのような基準で浪費かどうかを判断すべきなのでしょうか。
まず、一般的な用語としての浪費と、離婚原因や慰謝料の原因となり得るほどの浪費は区別する必要があります。
たとえば、夫がパチンコで一日に3千円使い、夫婦共に「無駄遣いをした」と感じたとしても、離婚や慰謝料が認められるほどの浪費とは認められません。
なぜなら、一般的な用語としての浪費と、離婚や慰謝料の原因となり得るほどの浪費は全く基準が違うからです。
多くの人は、この区別が区分に悩むと思いますので、まずは「離婚原因や慰謝料の原因となり得るほどの浪費」がどの程度の消費を指すのかを具体的に考えていきましょう。
判断の基準となる経緯・金額・資金使途・所得・保有財産
離婚や慰謝料の原因となる得る浪費に、明確な基準はありません。裁判所は、それまでの経緯、金額、頻度、資金使途、所得、保有財産など、様々な事情を考慮した上で総合的に判断します。
たとえば、消費金額が過大かどうかは、当事者の所得や貯蓄との対比を考える必要があります。月10万円を勝手にギャンブルに使っても、月収500万円なら浪費に当たらず、月収15万円なら浪費になる、と判断される可能性はあり得ます。
また、その消費で借金が形成されている場合は浪費と判断されやすく、逆に借金までしていない場合は浪費と判断されにくいと考えられます。
資金使途は、ギャンブル・風俗代・飲み代・趣味に費やすお金・旅行代などの娯楽費・遊興費は浪費と認められやすく、食費・水道光熱費・通信費・消耗品費・通勤のガソリン代・子供の学費などの、生活をする上でやむを得ないと考えられる範囲の消費は、浪費とは認められにくいでしょう。
ただし、不必要かつ過大な消費は別です。毎日外食で高額を消費したり、毎日誰もいない時間帯にエアコンを付けっ放しにしたり、携帯電話の通話・ゲーム・通信料金等で過大な消費をすることも浪費と認められる可能性があるので注意しましょう。
その他、浪費かどうかの検討と共に「信頼関係を壊す行為かどうか」の検討も重要です。たとえば、金額自体は家計を破綻に陥れる程度ではなくても、決して小さいとは言えない消費を勝手にしたら、夫婦の信頼関係を壊す行為だとして非難される可能性は出てきます。
たとえば、高価な家財家具・家電製品・自動車・ブランド品などの購入は、直ちに家計を破綻に陥れる過大な消費とは言えませんが、配偶者の高価な物品の購入は「共有財産の減少」という形で他方配偶者に影響を及ぼしますので、夫婦の信頼関係を保つため、原則として「配偶者と協議して結論を出すべき」と考えるべきです。
もしこの原則に反して配偶者の一方が勝手に高価な物品を購入すれば、他方配偶者は検討の機会が与えられないまま共有財産の減少という結果を押し付けられることになりますので、信頼関係を壊す行為と非難されても仕方ないといえるでしょう。
これと同様に、金額的には家計を破綻にさせるほどでなくても、偽造した給料明細で配偶者を騙してギャンブルや風俗に多額を費やしていたりするなど悪質性が強ければ、夫婦の信頼関係を壊す浪費があったとして、離婚や慰謝料の請求が認められる可能性は高いといえるでしょう。
浪費癖の改善には周りの人の適切な関与や協力が必要
配偶者の浪費を前に、離婚か修復かで悩む方は多いと思いますので、夫婦問題の相談を行っている私から実務上の雰囲気をお話しさせていただきます。
浪費癖に改善の可能性を見いだせるかどうかは「本人の姿勢」と「周りの人の関わり方」によって、大きく変わってきます。
まず、浪費をする人(以下「浪費者」といいます)に、反省と改善の意思がある場合です。本人に反省と改善の姿勢があるなら問題ないようにも思えますが、現実はそう甘くはありません。
浪費者の浪費は「癖」のようなものですから、無意識のうちに発生する現象に近いものがあります。
浪費は「本人の性格・考え方・意識の問題」だとして放置されがちですが、病気と同様の症状と考えれば、本人に対する感情も対策も変わってくるのではないでしょうか。
たとえば、浪費者が「ギャンブルは二度としない!」という約束を破った場合でも、それが「本人の自覚の問題」と考えれば「自覚が足りない」と浪費者を責める気持ちになりますが、「病気に近い症状」と捉えれば本人を責める気持ちにはなりにくいはずです。
実際、私が関わった問題の多くも、浪費者の状況を正確に把握した上で、関係者の考え方や関わり方を修正すれば、致命的な結果に至らずに解決できるものでした。
たとえば、深刻な浪費に家族が巻き込まれる恐れがある場合でも、最初に最悪の状況を受け入れる覚悟さえできれば、大部分の問題は片付きます。
浪費者が言うことを聞くなら、浪費者の財産を代わりに管理して改善してあげればいいし、浪費者が勝手に浪費や借金をする可能性があるなら、それを制限する手続きをすればいいだけの話です。
浪費者が言うことを聞かずに破産の可能性がある場合でも、残りの財産さえ諦めれば命まで取られるわけではありません。
破産しても、命があれば夫婦の関係も親子の関係も維持できます。経済的に一線を引いていれば、夫の借金を妻がかぶることもありません。
夫の所得や財産に依存せず、自分の力だけで生活する覚悟さえできれば、夫と暮らしていても事態は冷静に見つめられるはずです。そうなれば、配偶者の一挙手一投足に悩むことはほとんどなくなります。
仮に、別居や離婚をする場合でも「最悪の状況から脱するため」と考えれば、これから運気は上がる一方と考えられますから、特別に悩む必要はありません。人事を尽くして天命を待つ、というだけの話です。
やるべきことをやり、漠然とした不安に悩むことをやめれば、目の前の世界は一気に変わりますので、くれぐれも配偶者の浪費に悩み過ぎて、自分自身を傷つけないようにしましょう。
次は、自分の消費に問題は無いと信じている浪費者のケースを検討してみましょう。このような人は「他人の意見を聞いても無駄」と考えていますから、単純に「本人の姿勢が変わらない以上、浪費癖は絶対に直らない」と考えればいいと思います。
こんなとき周りの親族らは「本人の意識を変えるしかない」と様々な方法で説得を試みたりもしますが、そう簡単に本人の意識は変わりません。基本的に人間は年齢を重ねると、長年の経験から考え方が硬直化していくものです。
もちろん、歳を経るごとに柔軟性を増していくような人もいますが、浪費者の多くはそのような柔軟性は持ち合わせていません。
したがって、親族らがいくら対策を試みても事態は改善しない、という状態が続いているケースが多いのが実情と考えられます。
大切なことは、親族らがそれなりに対策を試みても改善しない場合は「自分たちの力だけでは解決できない」と割り切って、早く改善に導いてくれそうな専門家などに相談することです。なぜなら、浪費癖が改善しないケースの多くは、周りの人間の関わり方に問題があることがよくあるからです。
たとえば、浪費者が目の前で浪費していても「あまり意見を言うと怒るから」と言って黙認していたり、多額の借金が何度発覚しても、「可哀想だから」と言って借金を肩代わりしたり、浪費や借金をする制限する手続きを行わなかったり、世間体を気にして浪費の事実を隠そうとしたり・・・、周りの親族らが良かれと思って行う行動が、浪費癖の改善から遠ざけてしまっている現実があったりします。
浪費癖の改善を図る上では、まず周りの親族らの考え方や行動を変えなければならないケースもありますので、この点はくれぐれも注意しておきましょう。
浪費者に影響を及ぼす関係者
浪費が改善するかどうかは、周りの人の関わり方次第で大きく変わってきます。ここでは「関わる人」によってな展望が予測されるかを考えてみましょう。
浪費者の親族
浪費者の親族は最も身近な存在ですので、浪費の改善を心から望む強力なサポーターになり得る存在といえます。
ただし、本人に対する思いの強さが仇となって、浪費を抑えるどころか反対に助長してしまう危険性も多分に含んでいることに注意する必要があります。
本人の傷を癒すつもりが、実際は単に甘やかして問題行動を助長させる行動を「イネイブリング」といい、これを行う人を「イネイブラー」といいます。
深刻な浪費問題には、親族の中にイネイブラーがいるケースも多いと考えられていますので、ある程度親族が関わっても改善しない場合は、なるべく早く、客観的に判断のできる第三者に相談してみましょう。
法律的な手続きを行う専門家(弁護士・司法書士・行政書士等)
弁護士・司法書士・行政書士などの法律的な専門家に浪費の相談をすると、何となく法律の力で解決に導いてくれそうな気もしますが、多くの場合はそう簡単には解決しません。
浪費に基づく債務を整理する手続きなら、弁護士や司法書士に依頼して解決を図れますが、「浪費癖を直す」という根本的な問題は、法律の力で解決するのは難しいといえます。
なぜなら、現在の法律は「浪費者は性格に偏りはあっても十分な判断能力を持つので、金銭の使い方に裁判所が介入するのは市民生活に対する過度な干渉となるから不適切だ」というスタンスのため、特別の事情が無い限り、本人の消費を法律で制限することができないからです。
このようなことから、法律的な手続きを行う専門家の多くは、浪費に関する相談を受けると「浪費を原因とする離婚相談」と捉えて対応してしまう可能性があります。
相談者が離婚を決意しているなら力強いサポーターになると思いますが、そうでない場合は、自然と離婚手続きのレールに乗ってしまわないよう注意しましょう。
カウンセラー
浪費癖の原因が、日常生活における様々なストレスの場合、カウンセラーのカウンセリングによって、浪費癖が改善する可能性はあるでしょう。
ただ、日本の一般的なカウンセリングは、クライアントの話をひたすら聴く手法の「傾聴型のカウンセリング」で、週1回のカウンセリングだと効果が出るまでに2年はかかると言われたりもしますので、即効性は期待できないかもしれません。
とはいえ、浪費という「癖」は、時間をかけて徐々に直していくべき問題と考えられますので、長期戦も視野に入れたカウンセリングは検討した方がいいでしょう。
精神科医
精神科医は、精神に関する病を治すため、医学的な理論に基づいて助言をし、治療に適切と考えられる精神薬を処方してくれます。
精神薬が必ず効くとは言えませんが、少なくとも精神薬の処方は、国家資格者の精神科医しかできませんので、「浪費に関する病気(ギャンブル依存症、買い物依存症など)」の疑いがある方は、積極的に精神科医を受診してみましょう。
ただし、精神科医は精神約のプロではあっても、心の問題を扱うプロではないので、個々の細かな問題の相談やカウンセリングは基本的に行いません。
その点を踏まえてカウンセラーのカウンセリングと共に、精神科医から処方された精神薬によって上手く改善を図っていきましょう。
お金に関する嘘や秘密は夫婦の信頼関係を破壊する
夫婦の所得や貯蓄の金額には何の問題もなくても、信頼関係を壊す嘘や秘密や隠ぺい等によって、離婚の危機に陥ることがあります。まず、結婚前に多いのは婚約者に年収や借金の金額を偽るケースです。
知り合うキッカケがお見合いなら所得に嘘偽りは少ないと思いますが、自由恋愛の場合は、多くは男性が女性に良く思われたい一心でつい所得や借金を偽って伝えてしまうことがあります。
たとえ所得や借金に嘘があっても結婚前に発覚すれば再検討できますが、いざ結婚した後に金銭面での深刻な嘘が発覚した場合は大変です。
腹は立っても、結婚した事実が変わりません。離婚すれば戸籍に傷がつきますし、祝福してくれた関係者に「騙されていたから離婚する」とはかっこ悪くて言いにくいです。そうはいっても、大切なことで嘘をつく人と一生添い遂げる覚悟もできませんから、こういう状況に陥った配偶者は、結婚当初から相当苦しむことになります。
お金に関する嘘・秘密・隠ぺいは、結婚後にも起きます。たとえば「自分のお金」「あなたのお金」という区別をする人は、自分の所得を配偶者に教えなかったり、夫婦間でもお金の貸し借りの関係を作ったり、家事一つにも配偶者にお金を要求したり、様々な問題行動をする傾向があります。
要するに精神的に未熟なわけですが、謙虚に考え方を改めようとする姿勢がないなら、夫婦の信頼関係や協力関係を築くのは非常に困難といえるでしょう。
更に、この未熟さに横暴な性格が加わると「配偶者の物は自分の物、自分の物は自分の物」といった利己的かつ独占的な考え方になります。
たとえば「夫が家族のためにお金を稼ぐのは当たり前」と言って、妻は自由に夫の給料を使っていながら、自分がパートで稼いだお金は「私が稼いだお金(私のお金)を夫に教える必要は無い」と言って、夫に自分の収入や財産を明かさないようなケースはよくあります。
このような妻の多くは、日常の生活費は全て夫の給料から支出し、自分が稼いだお金は夫の知らない銀行口座に着々と貯め込んでいたりします。
更に用意周到な人は、万が一離婚することになっても財産分与で不利にならないよう、お金を子供や親族の名義の口座に振り分け、意図的に夫婦の共有財産から外していたりもしますが、限度を超えた保身を図る行動は、ほぼ間違いなく夫婦の関係を崩壊に導きますので注意が必要です。
金銭的束縛による精神的虐待
配偶者の一方が、正当な理由もなく、他方の配偶者に(生活費や小遣いなどの)お金を使う権限を与えなかったり、財産の存在や動きを教えないことがありますが、これは「金銭を通じての精神的虐待」と考えられます。
このような虐待は、広義では「同居関係にある配偶者との間で起こる家庭内暴力」を意味するドメスティックバイオレンスと言い、狭義では「精神的な暴力や嫌がらせ」を意味するモラルハラスメントと言われたりもしますが、ここではモラルハラスメント(以下「モラハラ」という)という用語でお話しします。
まず、モラハラの加害者は、配偶者を支配するために、配偶者の様々な権利を認めなかったり奪おうとします。
加害者は「お前はお金を管理する能力が無いから任せられない」などと、正当な理由があるかのように言い、配偶者のお金を使う自由や権利を奪おうとします。
この時、被害者自身が被害の自覚を持てたらいいのですが「自分に落ち度や原因があるのだから仕方ない」と、自分の原因があると思討事が多いため、問題が表面化しづらい側面があります。
しかし、支配と従属という不健全な夫婦関係は、これを取り巻く社会としても放置すべき問題ではありません。もし目の前の問題が深刻なモラハラであった場合、決断力や行動力を失った被害者だけで本質的な問題の解決を図るのは非常に困難といえます。
問題の解決には、被害者自身が問題のある現状を理解することも大切ですが、同時に被害者の周りの人間が事態の改善に向けて支援をすることも重要です。
ただし、離婚を視野に入れて解決すべきモラハラ問題かどうかの検討は慎重に行いましょう。こういった問題の解決に慣れていないと、配偶者の一方から「生活費を渡してくれない」という話を聞いただけで、DVだのモラルハラスメントだのと大騒ぎしてしまいがちです。
しかし、いざ相手から詳しい事情を聞くと「今までに相当の浪費が重なったから仕方なく制限しただけだ」などと、相当の理由が判明することはよくあります。
そして、こういった思い込みや偏見に基づく誤った判断は、肩書(弁護士・司法書士・行政書士・警察・裁判所の調停員等)のある人でも十分にあり得ますので、他人に相談する場合は、現実的な解決に導いてくれそうな能力と誠実さを持つ人を選ぶようにしましょう。
お金を管理する能力が乏しいと夫婦関係は破綻に近づく
夫婦の関係は、お金に関する価値観や考え方に問題がなくても、お金を現実的に管理する能力が不足していると、破綻することがあります。
たとえば、人一倍妻子を愛する気持ちが大きい夫であっても、家計に致命的な打撃を与えるような買い物を繰り返されると、さすがに婚姻生活は続けられなくなります。
このような人と交際した人は「羽振りのいい人」と感じて結婚したりもするのですが、いざ結婚して夫の懐具合と消費の関係を冷静に検討すると、無計画にお金を使っている実態が浮き彫りになったりします。
問題が明らかになれば、すぐに事態は改善できそうにも思えますが、お金の管理がうまくできない人は、根本的な性質の部分で、性格がルーズであったり、現実を説明されても理解できなかったり、収入がなくても生活のレベルを下げられなかったりする部分がありますので、そう簡単に事態は改善しません。
この手の人は周囲の人からも「良い人」と評価されていたりします。長所に見える点は短所にもなり、短所に見える点は長所にもなり得ますので、周囲の人の評価は慎重に検討しなければなりません。
問題が本人の努力だけで改まるなら良いのですが、生来の性格であったり、病気と考えるべきものなら、現実に即した対応をするしかありません。
現実に即した対応とはつまり「お小遣い以外のお金は渡さない」とか「借金ができないようにする(貸付自粛制度に基づく申告手続き)」といった手続きになるでしょうか。
そのような対応をしても家族に悪影響が及ぶなら、まずは距離を置くための別居をし、一定期間を経ても改善が見込めないなら諦めて離婚するもやむを得ないと言えるでしょう。
優しい性格の本人を見捨てるわけにはいかない思いから、配偶者や親族などの周りの人間が、できる限りの金銭的な援助を試みることもあるでしょうが、時には助けないことが、本人のためになることもあります。
私が離婚相談を行う中でも、病的にお金を使い込んでしまう息子を放っておけず、何千万円もの大金を尻拭いしてきた両親もいましたが、最後にはお金が尽きて「早い段階で尻拭いをストップするべきだった」と後悔していました。
貧乏に強いほど離婚しにくい(夫婦喧嘩の7割はお金の問題)
「愛があればお金はいらない」という考え方については、テレビや雑誌でお決まりの話題として取り上げられますが、本気でそう考えている人はごく少数ではないでしょうか。
大多数の人は、お金が全てとは言わずとも、それなりに高い経済力がなければ、平和な暮らしは手に入りにくい現実があることを知っています。
「夫婦喧嘩の7割はお金の問題」という統計もありますが、これは結局「お金があれば夫婦喧嘩は防げる」という現実を示していると言っていいでしょう。
全くお金がないと生活自体ができませんから、最低限のお金は絶対に必要です。こう考えると「愛が強ければ、貧乏生活の耐久力は増す」というのが、最も現実的に即した考え方と言うべきではないでしょうか。
現実的な貧乏生活の耐久力を考えると、その強さは愛情の強弱だけでなく、元来の性格や生い立ちが強く影響してくると言っていいでしょう。
たとえば、心の中で「死んでもこの人についていく」と思っていても、貧乏生活に弱い人が、現実の生活でネズミがチューと顔を出しそうな環境下に置かれたら、強いストレスで途端に逃げ出してしまうことはあり得ます。
反対に、心の中では「この人とはいつ別れてもいい」と思っていても、貧乏生活に強い人なら、前述のネズミがチューの環境下でも、何のストレスも感じないまま普通に生活できたりするものです。
こう考えると、貧乏に強いほど離婚しにくく、貧乏に弱いほど離婚しやすい、という傾向があることは間違いないと言えるでしょう。
昨今は、経済的なことを深く考えないまま結婚し、いざ現実の厳しさを感じるとすぐに離婚を決意する傾向が強いと感じられます。
「結婚後はどんな経済苦にも耐えるべき」などと言うつもりはありません。しかし、結婚や離婚が自分の人生だけでなく、相手方や子供やお互いの親族の人生にも大きな影響を及ぼすことを、よく考えた上で決断した方がいいでしょう。
昔の人は「一度結婚したら何があっても添い遂げるべき」といったような覚悟で結婚し、両親も「一度家を出たからには何があっても戻って来るな」という厳しい姿勢で送り出していた、という話をよく聞きます。
昔と違い、柔軟な形で結婚や離婚が可能になった時代の変化は大きな進歩だと思いますが、その半面、かつては存在した結婚に対する固い決意や覚悟のようなものが失われてきたことは、大きな退化といえるのではないでしょうか。
なお、固い決意の下に結婚した場合でも、結婚後に配偶者が何らかの事情によってやる気を失い、奮起を促しても働かず、日々の生活にも困窮して離婚するようなケースもあると思います。
しかしそれは、表面的には金銭的な困窮が離婚原因に見えても、実際は結婚相手のやる気のなさに愛想を尽かしての離婚と考えられます。
経済的に困窮したとき、妻から離婚を突き付けられた男性は「金がなくなったらお払い箱か!」と捨て台詞を吐いたりしますが、実際はお金の不足自体が問題ではなく、苦境の中で前向きな姿勢が見られない夫の姿勢や態度に愛想を尽かして離婚を決意するケースが多かったりします。
苦境の中でも家族のために必死に働く夫の姿を見たら、妻もそう簡単には離婚を切り出したりはできないでしょう。
経済力の強弱が夫婦の将来を大きく左右することは確かですが、夫婦が厳しい現実に背を向けず、前向きな姿勢で改善を図ろうとするなら、経済の問題も夫婦の問題も好転する可能性が高くなると思います。